良い素材の見つけ方はしつこく悩むこと
2023年07月30日
先週に引き続き、今回も私が勉強してきた内容を書きます。
先日、名古屋工業大学の北川啓介教授を訪ねました。
北川先生は「インスタントハウス」という家を発明された方です。 インスタントハウス
テント地を膨らませて置いて内部に硬質ウレタンフォームを吹き付けただけの家。現在のところまだ確認申請が通らないので工作物扱いとなり家とは呼べませんが、建物として世の中に出てくるのもすぐでしょう。
なぜ私が先生のところを訪ねたかというと、近々の課題解決のためと、ここ数年後の課題解決のためです。2時間ほどの面談で「サッ」と課題解決の知恵をいろいろ下さり本当に助かりました。
今日の話題は近々の課題解決の内容です。
設計の優先順位は建物用途によって違います
今年末から始まる ある事務所のリノベーション工事。限られた予算の中で感じが良く「人が来たくなる空間」を作ることが目的です。
【設計の優先順位】
オフィスや商業施設は住宅の設計とは違うと考えています。オフィスや商業施設は用途が決まっています。今回のご依頼は「人が来たくなるオフィス」 このコンセプトを実現するために建物をつくりたいというのがお客様の第一の希望です。
そのために私が決めた設計の優先順位は、安全→デザイン=予算→耐久性→温熱環境 です。(予算とデザインは同等の優先順位です)
つまり人の集まるデザインを作るためには、耐久性や温熱環境(省エネ)は二の次と考えて設計しています。
居心地がよくそして次の時代に引き継がれる住宅設計とは全く違う考え方です。
安価で格好良く作ろうと、まずは柱や梁をむき出しにしてそして真っ白に塗装して・・・・
と考えてお客様ともその方針で行くことを決めていました。
けど、住宅屋のさがですよね。
「そんな仕様だったらエアコン何台あっても足りないぞ。多分お客様冬の電気代を見てこし抜かしてしまうぞ。」
とずっと悩んでしました。
そんな時、テレビ番組のカンブリア宮殿でインスタントハウスを見て「もしかしてこれ使えるんじゃないの?」と感じました。
ある子供の「なんで?」から生まれた家
インスタントハウスが生まれた経緯はあるお子様の「なんで?」からです。
北川先生が東日本大震災の時、避難所に訪問した時あるお子さんから「なんで仮設住宅はすぐ建たないの?」と迫られたそうです。
それから必死で考えて、何度も失敗を繰り返しながら作られたのがこの家だそうです。
私が先生の立場だったらどうしただろうかと考えました。
多分「家はね、基礎を作って、土台や柱や梁を建てて、外壁を作って、屋根を作って・・・・・だから、何か月もかかるんだよ。」
と、その子にとってはどうでもいい建築屋としての常識を伝えたでしょう。他人事のように、
北川先生はその子の言葉に真摯に向き合い、自分事として考えたからこの家が作れたのだと思います。
(今回のブログなんか道徳っぽいですね・・・)
困って悩むと ものの見方が変わる
今回のオフィス設計で温熱環境を何とかしたいと真剣に考えたからこそ、この家に出会えたと思っています。
「断熱材を吹き付けたままの仕上でいいんじゃない?」
正直なところ、建築屋としては非常識でリスクがある解答です。
それでも、安価で断熱も意匠(見た目)も解決できる可能性があるのなら検討するべきと思い、じゃあどんな感じか見に行ってみようと見てきました。
実際に見て、触れて、叩いてみて そして開発者の北川先生に色々伺って“いける”と感じました。
前例は何もないところから生まれてきます。
これは、タマゴグミで使われている床材です。
節がいっぱいあります。
昔、家の床は節がないのが常識だった時代があります。
しかし節無しの床材を手に入れるのは難しいし価格も高い。
そこで考えたのが、合板フロアーじゃないかと思います。
べニアの上に3ミリ程度の本物の木を貼り付けウレタン塗装で固める。見た目は節無しの床と同じでコストは大きく下がります。
これは、「安価で無節や高級な材料の床をつくりたい」という強くしつこい拘りが生んだ産物でしょう。
一方で「節があっても本物の木を使おうよ。抜けた節は埋めればいいじゃん。」という、無垢材に強くこだわった者たちが、節ありの床材を広めたのでしょう。
タマゴグミで建てている中古モデル住宅です。
外壁を木張りにしたいというこだわりがあるものの、メーカーが作る外壁用の木にすると高すぎて使えない。
製材所にふと行くと、2メートルの乾燥した杉の板が山積みされてました。昔の家では常識的に使われていた畳の下に使う板、今ではほとんど使わなくなったので余っていた材料です。
じゃあそれを外張りに使ってみようと思い貼ってみました。価格はメーカーの材料の半分以下です。
しかしリスクはあります。割れるのではないか? 腐りやすいのではないか?という不安がついて回りますが、前例は前例がないところから始まるのでまずはやってみることが大切かなと思っています。
ご依頼されている事務所の改装ですが、予定では来年初めに完成する予定です。できたらご案内しますので、ぜひ見学に来てください。